路地裏ブック

本の感想

野地秩嘉『SNS時代の文章術』感想

SNS時代の文章術 (講談社+α新書)
SNS時代の文章術というタイトルから、TwitterやLINEで使える文章術のように勘違いされるかもしれませんが、SNS時代だからこそ、ちゃんとした文章を書くと目立つよ、っていう感じの本です。

「文章術」っていうと名のある小説家か、小説とは関係ないライターのどちらかにわけられるのですが、この本は後者になります。
「文章力0」だったからこそ、どうしたら文章が上達するか教えられるよ、ということです。

しかし、そのわりには曖昧だったりよく言われていることだったり、が多いような気がしました。
たとえば、文章が上手になる方法であげているのは、「自分がなにを書くかはっきりさせる」や「簡潔で明晰」といったものです。
それに対して詳しく「どうすればいいか?」が欲しい人間にとっては、簡単な記述にとどまっている気がします。

唯一、参考になった点といえば、「読み手がゆっくりと読むことができるリズム」ということに触れていることです。
幾つかの文章術の本を読んできたのですが、「読み手がゆっくりと読めるリズム」については、野地さんしか書いていないような気がします。
この人の文章の核となっているのでしょう。

安藤俊介『「怒り」のマネジメント術』感想

「怒り」のマネジメント術 できる人ほどイライラしない (朝日新書)
「怒り」ほど制御するのが難しい感情はないと思う。さらに怒りが厄介なのは、そこに「攻撃性」を持っていることだろう。
一時の感情に身を任せてしまえば、人間関係の悪化のみならず、下手すれば自分の人生でさえ台無しにしてしまう。

本書では、そんな難しい「怒り」というものを題材にしながら、「アンガーマネージメント」という怒りのコントロール術について記されている。

読んでいてもっとも驚くのは「全ての怒りの原因は自分である」ということだろう。
自分のせい? そんなわけがない。あいつが悪いから怒っているんだ。
そう思われるかもしれないが、安藤さんは人間にだけある「意味付け」というものが、怒りを発生していると説く。
怒りという感情の引き金を引いているのは自分なのだ。

怒りのメカニズムを解いたあとで、実際に怒りをコントロールする方法が述べられる。嬉しいのは即効的に効く「対症療法」と、根本から変える「体質改善」の両方について書かれていることだろう。

もし「怒り」の感情に支配されそうになったときは、是非この本を読んでほしい。

茂木健一郎『脳を活かす勉強法』感想

脳を活かす勉強法 (PHP文庫)
勉強したはずなのに身についていないだとか、いざテストを開くと全然覚えてないだとか、よくあると思う。
学校では「勉強」について教えてくれても「勉強法」については教えてくれない。
ほとんどの人が独学でやるか、どこかで見聞きした勉強法を試すか、の二択だろう。
だけど、それって自分にとって正しいのだろうか?
そう疑問に思った人に読んで欲しい本になっている。

この本は、脳科学から見た「勉強法」の本である。読んでいると、「なるほど」と共感するようなことが多い。
まず「強化学習」という学習の仕方について触れている。「強化学習」とは、試行錯誤することによって放出されたドーパミンによって、シナプスが強化されることである。
よく「好きこそ物の上手なれ」という言葉があるが、茂木さんは「自ら進んでやる」ことの大切さを説く。
やらされる学習と、自らやる学習では、身につくものが段違いなのだという。さらに「脳に負荷をかける」ことによって、さらに脳は強化されていく。詳しいやり方については是非、本書を読んでほしい。

石井遊佳「百年泥」感想

新潮 2017年 11 月号

「百年泥」というタイトルを聞いて、まず思い出すのはガルシア=マルケスの『百年の孤独』だと思います。
「百年泥」も、リアリズムの要素がありながら、ところどころマジックリアリズムの要素がある作品になっています。

舞台はインドのチェンナイ。
主人公はそこで日本語教師をしている女性です。
百年の一度の大洪水があり、蓄積した泥が流れだします。その大量の泥の中から失われた物や、行方不明者が出てきたりする小説です。
おもしろいのは行方不明者がそのまま何食わぬ顔で泥から出てきたり、空を飛びながら通勤する人が出てくるところですね。
ここら辺がマジックリアリズムの要素になるのですが、「百年の一度の洪水」というのが、そういう有り得なさをどこか許容している雰囲気があるんですよね。

有り得ない出来事を描きながら、リアリティを保っているのはすごいと思います。
リアリティの円があるのなら、「百年泥」はそこからはみ出しているのですけど、そのはみ出した形のまま円になっていると思います。

「百年泥」自体は、橋を渡り始まるところから始まり、渡り終えるまでの小説です。
だけど情報量がすごい。日本語教室の思い出を交えながら、主人公の記憶の奔流が描かれています。

この手の小説で重要なのは記憶(エピソード部分)の出来の良さだと思います。ただ「百年泥」はユーモアに振り切れてる点があって、そこが個人的にはマイナスでした。

自分の壁紙とまったく同じ柄の服を着て壁の前で微動だにしないという風変わりな居留守(p81,新潮2017年11月号)

借金取りのエピソードでこの一文があるんですが、話としてはおもしろいんですけど、ネタっぽさが強いなと感じました。
その一方、主人公と母親のエピソードは細部まで描かれていて、そこは結構良いなと思います。

母と似ていて喋らない子ども新藤さんとか、後半につれてエピソードのおもしろさが上がっていった気がします。

百年泥―時間の塊―今の繰り返し―家族

時間の概念として百年が泥として固まっているっていうのがなかなか愉快ですね。

総評としては、新しさは感じないが良い小説という感じですね。まっとうな小説な気がします。
青木淳悟の少し近いのかな、と。

デスゲーム系の小説まとめ&おすすめ

デスゲームとは?

文字通り、死のゲーム。
登場人物たちは、命をかけてゲーム参加する。

漫画、小説、映画などあらゆる媒体でデスゲームは存在する。
とはいえ、数は決して多いとは言えない。

これから、デスゲーム系の小説を読もうとしている人の参考になれば幸いです。

勝手な定義

1,主催者がいる
2,明確なルールがある
3,参加することで生死に関わる

デスゲームといっても色んなパターンがあるため、殺し合う系と、ゲーム系に区分してあります。

★度が高いほどおすすめの作品になります。

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矢野龍王『極限推理コロシアム』感想 密室殺人ゲーム

極限推理コロシアム (講談社文庫)

極限推理コロシアム (講談社文庫)

デスゲーム×王道ミステリー

「今から始まる殺人事件の犯人を当てよ」
監禁された七人の男女に「主催者」から突然そう告げられる。
しかも監禁されているのは彼らだけではなく、別の場所で同じように七人の男女が監禁されていた。
「夏の館」と「冬の館」合わせて14人。
それぞれの犯人を言い当てないと、全員死刑になる。
解答は一回のみ。
主人公、駒形は「犯人」を見つけ出し、生きてこの場から出ることができるのか。

舞台設定がなかなか見事で、おもしろい作品だと思った。
とくに秀逸なのは「冬の館」というもう一つの館の存在。彼らとの通信による情報だけで「冬の館」の犯人を当てないといけないっていうのが斬新だった。

ミステリーとしての難易度はそう高くない。
恐らく大半の人が途中でトリックの正体に気づくと思う。
ミスリードはいっぱい張ってあるが、どれもすぐ「違う」と気づくだろう。

ただ、フェアではないような気もした。誰が犯人かはわかるのだけど、その証明の仕方が歯切れ悪い。
唯一無二の証拠があって犯人を見つけるわけではないので、作者のさじ加減のような気がした。

トリックの方が重要であり、犯人はどうでも良いといっているようなものだ。残された謎に対しても憶測が多く、すっきりとしない。

ただおもしろい作品であるのは事実なので、主人公と一緒になって「犯人探し」をしてみるのも悪くないだろう。

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ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』感想

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

犯罪小説の傑作

流浪の身だった「俺」ことチェンバーズが、愛のため犯罪を犯すことになるノワール小説。
ギリシャ人店主のニックのもとで働くことになった「俺」は、その妻であるコーラに心を奪われ、コーラと共謀してニックを殺すことを計画する、というストーリー。

訳者は池田真紀子で、新訳ということもあってスラスラと読むことができた。一人称の軽快な語り口で綴られているのだが、決して「軽くはない」内容だ。

サスペンス要素がふんだんに盛り込まれていて、飽きない。問題が解決すると思いきや、また問題がふりかかってくる。
犯罪者の業のようなものを感じさせられた。

内容に触れるとネタバレになってしまうの控えるが、いま読んでもおもしろいので、サスペンス好きなら是非読んでほしい。

とにかく構成が巧みだ。

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