路地裏ブック

本の感想

津村記久子『カソウスキの行方』感想

カソウスキの行方 (講談社文庫)

カソウスキの行方 (講談社文庫)

短編集。「カソウスキの行方」、「Everyday i Write A book」、「花婿のハムラビ法典」の3本が収録されている。

まず表題作でもある「カソウスキの行方」から感想を書いてみる。
あらすじとしては、本社から郊外の倉庫に左遷させられたOLのイリエが、仮想的に同僚の森川を好きになってみるという話。しかし恋愛の甘酸っぱさはどこにもなく、むしろ冷めていておもしろい。

イリエが偶然に、ショッピングモールで森川を発見するシーンなんで良い意味でひどい。

森川がカートを押して横切っていくのが目に入った。あの人こんなところに来るのか、休みの日は絶対風俗行ってるんだと思ってた、いや、今は風俗帰りで寄ってるだけかもしれない(p30『カソウスキの行方』講談社文庫)

女の人が男の人に対して「風俗帰り」だと思うなんて、恋愛対象外以外の何物でもないだろう。思わず、笑ってしまった。
読んでいくと森川が良いやつなことはわかる。ちょっとぶっきらぼうではあるけれど、イリエに対して裏のないやさしさを見せる。

段々好きになっていく話かな、と思ったら、まったくそうならないのが津村記久子のすごいところだろう。
最後の森川に送ったメールもかなり笑えるので、まだ読んだことのない人は是非。

「カソウスキの行方」は個人的には津村記久子のなかで一、二を争うほど好きな短編だった。

次は「Everyday i Write A book」。

新しく地下鉄に導入される「ICカード」と、そのデザイナーであるシカド君、その妻である絵本作家茉莉。主人公である野枝は、その茉莉のブログを見ているうちに段々とおかしくなっていく。
この話も恋愛未満のような雰囲気で展開していく。毎日、ゴミ箱から雑誌を拾うオサダ君と仲良くなっていくのだ。茉莉のブログの苛々とする感じが、実際にありそうで笑える。

最後は「花婿のハムラビ法典」

これから結婚式である花婿が、新婦に対してあれこれ思い返す話。遅刻はしまくるわ、ドタキャンしまくる恋人(新婦)に対して、「目には目を」ということで、遅刻したりドタキャンしたりする主人公が描かれている。
この話も結婚までいっているのに、愛がそこまでないように見える。冷めきっているわけではないのだが、普通の恋人ではないような感じがする。
一筋縄ではいかない話で、おもしろい。

津村記久子『とにかくうちに帰ります』

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

『とにかくうちに帰ります』は短編集。
家が好きな僕は、題名からして「わかるわかる」とつぶやきたくなってしまう。家って最高だ。

収録されている短編は6つ。うち4つは「職業の作法」というタイトルでまとめられている鳥飼早智子というOLが主人公。その次の短編「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」も鳥飼さんが主役のため、表題作以外は鳥飼さんの話になっている。
とはいうものの、たいていの視点人物がそうであるように鳥飼さんはカメラの役割の方が強い。
小説に出てくる脇役たちの方がキャラが濃いのである。

「職業の作法」の一話目は「ブラックボックス」という掌編。
そこに出てくる田上さんというOLは、自分へのぞんざいさを態度ではなく仕事のスピードで表す。
誠意が見られない相手には、わざと締め切りギリギリに出して、頼んだ相手をひやひやさせるということを繰り返している。

次の三話目の「ブラックホール」に出てくるのは間宮さんという定年間際の会社員で、彼は他人の文房具を勝手に使うという悪い手癖を持っている。しかも借りたことをすぐ忘れてしまうのだ。傍迷惑極まりないが、逆に自分のものを勝手に借りられても気にしないタイプなので許されている。主人公である鳥飼さんも、愛用の万年筆を借りパクされたままで、どうにか助け出す機会をうかがっている。この掌編のおもしろいところは、鳥飼さんの間宮さんの評価がころころ変わるところだろうか。

「職業の作法」は読んでいて抜群におもしろい。出てくるのは変な人ばかりなのだけど、実際にいそうなレベルばかりでリアリティがすごい。
そんななかで、会長の隠し子の名前がギジェルミーナだったりとふいに出てくるユーモアも素敵だ。

「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」という噛みそうな短編は、フィギュアスケートの話。個人的にはあんまりはまらなかった。
しかし応援する選手がみんな悪いことが起きる浄之内さんはなんだかキュートだった。

そして表題作「とにかくうちに帰ります」なのだが、ぶっちゃけるとこれも自分的ヒットにはならず。バットには当っている気がするのだが、おもしろいの域にまで入らなかった。
一応説明しておくと「とにかくうちに帰ります」は、豪雨でバスがいなくなってしまい会社から歩いて帰る話だ。会社は州にあり本土まで橋を渡らないといけない。
登場人物四人の群像劇のようになっていて、それぞれが大切なことを口に出したり、どうでもいいことで盛り上がったりするところが楽しい。

津村記久子『婚礼、葬礼、その他』感想

婚礼、葬礼、その他 (文春文庫)

婚礼、葬礼、その他 (文春文庫)

ものすごく大雑把に「婚礼、葬式、その他」という小説を説明すると、友人の結婚式の日に、部長の母という名前も知らない人の葬式に参加せざるを得なくなった人の話だ。
OLのヨシノは、楽しみにしていた旅行を予約したその日に友人から「結婚式をする」という手紙が届く。旅行の最終日とモロかぶりしていたヨシノは旅行を前倒しにすることもできず、結婚式の参加を決める。
なんと、ヨシノは今年3度目の結婚式だったのだ。泣く泣く旅行代理店にキャンセルの電話をかけながらヨシノはこう思う。

神様、一年間に参加できる結婚式の数は一つまでと決めてくれませんか、そしたら、わたしも慎重に選びます、慎重に選ぶ方便ができます。

思わず「わかるわかる」と呟きたくなるような心情にクスリと笑ってしまわないだろうか。
津村記久子の小説は日常の細かい「わかるわかる」に満ちている。些細だけど本人にとっては重要な出来事を拾いあげるのが上手い。
「婚礼、葬礼、その他」は、少し日常から浮いたものではあるけれど、誰でも経験のある結婚と葬式を舞台にしている。
でも、OLヨシノの一番の関心事というのはタイトルの「その他」に当てはまる「空腹」である。
忙しさのため食いっぱぐれたヨシノは、とにかく何か食べたいと思うも、まったく食に辿りつけない。
社会的優先度では、葬式>結婚式>空腹になるのだろうけど、本人にとっては空腹>結婚式>葬式なのだ。そこがおもしろいと思う。

さらに津村記久子のすごいところは、葬式をないがしろにしていないということだろう。ああ誰だかわからない葬式に参加して疲れたよ、で終わるのではなく、そこからさりげなく「人の死」というものを拾っている。
ヨシノが泣くことはまったく理にかなっていないからこそ、「死」というものの唐突さを表現できていると思う。
結婚式にいる友人のフォローや葬式の受付、忙しさに追われていたヨシノも、葬式が始まると座っているだけしかできなくなる。そのときドバっと色んなことを考える。そのとりとめのなさが、本当にリアルだし、小説がふっと変わって、すごく良い。

ちなみに『婚礼、葬礼、その他』には短編が併録されている。「冷たい十字路」という色んな視点から自転車事故の周辺について描いたものだ。こちらは表題作と比べると、よりシリアスな作品になっている。先生と事故にあった生徒の関係などぼんやりとしか描かれておらず、想像する余地がある作品になっている。
個人的には表題作の方が好きである。

藤ダリオ『放課後デッド×アライブ』感想

放課後デッド×アライブ (角川ホラー文庫)

放課後デッド×アライブ (角川ホラー文庫)

あらすじ

クラスで忘年会をしていた3年A組の生徒は、突如命をかけたデスゲームに巻き込まれる。
生き残れるのは男女ペアの1組だけ。
ルール違反や脱走をしようとすると即ロスト(死)される。
主人公の啓太は、そりが合わない彩香とともに勝者を目指す。
最初の対戦相手が親友と、啓太の憧れの女性とは知らずに……。

感想

藤ダリオの小説を読むのはこれで3作目になるのだけど、どれも似ているなという印象。
作家性というべきなのだろうか。
男女ペアを組みたがることと、映画の雑学を入れたがるところとか。

一番残念に思うのは、ペアの相手を見下すことが多いということ。下げて上げるパターンなのだけど、毎回わりと不快に思う。
よほどの天才ならいいんだけど、見下す側が大したことないパターンが多くて、読んでいて面倒くさく思う。

デスゲームのゲーム内容としては「放課後デッド×アライブ」は、悪くはないという感じだ。
内容としてはつまらないものも多いのだけど、毎回主人公がピンチになったりするので、どう切り抜けるかという点でおもしろい。

基本的にはおもしろく読めた。暇つぶしにちょうどいい。デスゲーム系の作品はあんまりないので、そういう意味でも楽しめた。

ここからネタバレ

ストーリーの落とし所は、ノアの方舟なんだけど、無理があるだろうと思ってしまった。
シェルターが一つなわけないし、作文を読んで選んだ? はい? という感じ。
自分の保身を考える政治家が、自分の命を守ろうとしないわけがない。全員が全員「日本の未来のために高校生に託そう」などと、考えないだろう。

斬新なオチでもないので、余計にがっかりした。無理があっても独創的なオチだったらまだ評価できるのだが、わりとありがちなオチだと思ってしまった。

学校が本物かどうかも語られなかったし、どこか消化不良を感じてしまう。玲奈の正体も調整役というのはわかるのだけど、そのわりにかき乱してるだけだし、結局どういう存在なんだと思ってしまった。子ども諜報員?

おもしろいだけにそういう点は残念だった。

さくらももこ『ちびしかくちゃん』感想 ある意味やさしい世界

ちびしかくちゃん 1 (りぼんマスコットコミックス)

ちびしかくちゃん 1 (りぼんマスコットコミックス)

ちびしかくちゃんとは?

ご存知「ちびまる子ちゃん」の公式パロディ。作者は同じさくらももこ。顔が丸いちびまる子ちゃんと比べて、「ちびしかくちゃん」は顔が四角い。通称「しか子」が主人公。
開き直る系のまる子と比べると、しか子はひたすら自虐的になる。
というより周囲がしか子に対して理不尽に厳しすぎるため、しか子が自虐にならざるをえないという感じだ。

10分遅刻しただけで激怒する友人だまちゃん。
「しか子 あんたはインスタントラーメン以下だよ」と罵る。

しか子に非があってもなくても「しか子が悪い」となるさくら家。

ちびまる子ちゃんの悪夢と言うようなブラックユーモア作品になっている。

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今村夏子「木になった亜沙」感想 文學界10月号

木になった亜沙を読む

やはりこの作家はただものじゃない。
「木になった亜沙」は、あらすじだけ追えば「変身譚」。タイトル通り、人間が木になる話だ。
一見するとよくある話。いかにも現代文学作家が書きそうなものだが……。
安心してほしい。ただの変身譚ではない。今村夏子色に染まりまくっている。

24時間テレビもびっくりの半生ダイジェスト

小説は保育園児の「亜沙」からスタートする。
ひまわりの種をお菓子にしたけど友だちが食べてくれない。好きな子にクッキー焼いたけど食べてくれない。
実はこの「食べてくれない」ということが、小説のキーワードになっていく。

なぜか亜沙が作るものを誰も食べてくれないのだ。
亜沙はこのことに薄っすらと気付いていてショックを受けている。

「食べてくれない」っていうのがテーマの小説って他にあっただろうか?
この「食べてくれない」理由も、色々と考察できておもしろいところ。
小説の序盤で母親が入院をしはじめ、やがて死んでしまうんだけど、まさか……と思ってしまう。
今村夏子あるあるだろうか。

母親の死のあと、叔母夫婦に引き取られ、赤ちゃんに母乳をあげようとしたところを見られ、高校でいきなりグレる。そして寺に行かされる。

これがもうノンストップで展開される。だらだらとした感傷なんて興味ないとでもいうかのようである。
おっと、この小説で「赤ちゃんのシーン」はわりと重要だ。
恐る恐るミルクを作ったら赤ちゃんがごくごく飲んでくれるのだ。
亜沙にとっては貴重の「食べてくれたシーン」である。
恐らく物心ついていないから善悪の区別がついていないんだと思う。

寺を離れることになる亜沙。最後にスキーに行こうと誘われて滑る。死ぬ。絶叫しながら死ぬ。ちなみにタヌキにチョコあげようとして拒否られます。
死人の顔に、木の実が落ちてくる。あ、木になったら食べてもらえるんだ、と思った亜沙。
その願いが通じたのか、見事「木」になります。ぱちぱち。

もちろんここで終わりではなく、ここまでが前半戦である。
ここから「木」になって→「○○」になって、そしてラスト。
「食べてくれない」がこうなるのかと思うと素晴らしい。

後半戦は文學界10月号本誌でどうぞ

文學界2017年10月号

文學界2017年10月号

普段エンタメしか読まない人でも、おもしろいんじゃないかと思う。
今作だけを見れば、ぎりぎり「倉橋由美子」が近いんじゃないかな、と感じた。
ブラックユーモア感ある。

芥川賞について

「木になった亜沙」が芥川賞とれるかと思うかといえば微妙。恐らく「星の子」でとると予測した編集者が、受賞後第一作としてお願いしたのだと思う。芥川賞とるには短すぎる。ただ、高橋弘希の「短冊流し」が候補になったことを思えば、候補にはなるかもしれない。変身譚としては本谷有希子の「異類婚姻譚」が一昨年くらいに芥川賞をとっている。その異類婚姻譚に比べると「木になった亜沙」の方が出来自体はいいかなと印象。

藤ダリオ「山手線デス・サーキット」感想 山手線を題材にしたデスゲーム

山手線デス・サーキット (角川ホラー文庫)

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  • 作者: 藤ダリオ
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あらすじ

高校生クイズ選手権で優勝した修平は、気づくと山手線の電車の中にいた。左には見知らぬ女性。2人は手錠でつながられており、首にはタイマーつきの時限爆弾が仕掛けられている。携帯に送られてくるゲームメーカーのクイズに答えられなかったら死亡。しかも、一問間違うごとに人質の親友が射殺されてしまう。
主人公の修平は、クイズメーカーのクイズと指令をクリアし、無事に生還できるのか?

概要

山手線を使ったデスゲームもの。
関東在住だとわりとイメージしやすいかもしれない。山手線を知らない人(いるのか?)は○になっている路線を想像するとわかりやすい。
高校生クイズ選手権のメンバー4組が争うという構図。

主人公とそのペアとの相性が悪い

ペアは親友の姉なのだが、主人公は性欲の対象としか見ていない。親友だったらどれほどいいかと繰り返しぼやく。ペアの女性もなかなかマイペースで緊張感がなく、見ていて少し苛々としてしまう。主人公は主人公で馬鹿を見下している感と、変な小細工をして自らをピンチにする、という意味不明さ。この2人に感情移入しろという方がむずかしい。

いきなり妨害する小心者

対抗チームの坂上という度胸のない男(主人公評)が、いきなり主人公を突き飛ばす。優勝しなければ「死」が待っているとはいえ、すごく回りくどく感じてしまった。収録では緊張して実力を発揮できなかった坂上が、こんな窮地で奇襲に出るかといったら、びびって出ないほうが自然。まだ坂上の思考がわかれば納得できるのだけど、それもなし。なら最初から悪どいやつにしとけばよかったのでは?ともやもやした。

「んー」というラスト

裏表紙には「ラストがかなりすごい」と書いてあるが、そうか?という印象。むしろ呆気ないと感じてしまった。決勝に期待させておいて、これなら直接対決の方がよかった。

不要な地の文

全体を通してみれば読みやすい。ただ、ときどき異様に長い地の文をさしこんでくることがあり、げんなりした。特に必要な長さとも思えない。主人公がぐだぐだ考えこんだり、不要なお色気シーンが混入されたりする。

普通におもしろい

なんだかんだケチもつけたのだが、首に時限爆弾をつけながらクイズや指令をこなしていくというシチュエーションはおもしろい。
クイズの意図も「なるほどなあ」という感じだ。
緊張感や絶望感がもう少しあると、なおよし。