路地裏ブック

本の感想

石井遊佳「百年泥」感想

新潮 2017年 11 月号

「百年泥」というタイトルを聞いて、まず思い出すのはガルシア=マルケスの『百年の孤独』だと思います。
「百年泥」も、リアリズムの要素がありながら、ところどころマジックリアリズムの要素がある作品になっています。

舞台はインドのチェンナイ。
主人公はそこで日本語教師をしている女性です。
百年の一度の大洪水があり、蓄積した泥が流れだします。その大量の泥の中から失われた物や、行方不明者が出てきたりする小説です。
おもしろいのは行方不明者がそのまま何食わぬ顔で泥から出てきたり、空を飛びながら通勤する人が出てくるところですね。
ここら辺がマジックリアリズムの要素になるのですが、「百年の一度の洪水」というのが、そういう有り得なさをどこか許容している雰囲気があるんですよね。

有り得ない出来事を描きながら、リアリティを保っているのはすごいと思います。
リアリティの円があるのなら、「百年泥」はそこからはみ出しているのですけど、そのはみ出した形のまま円になっていると思います。

「百年泥」自体は、橋を渡り始まるところから始まり、渡り終えるまでの小説です。
だけど情報量がすごい。日本語教室の思い出を交えながら、主人公の記憶の奔流が描かれています。

この手の小説で重要なのは記憶(エピソード部分)の出来の良さだと思います。ただ「百年泥」はユーモアに振り切れてる点があって、そこが個人的にはマイナスでした。

自分の壁紙とまったく同じ柄の服を着て壁の前で微動だにしないという風変わりな居留守(p81,新潮2017年11月号)

借金取りのエピソードでこの一文があるんですが、話としてはおもしろいんですけど、ネタっぽさが強いなと感じました。
その一方、主人公と母親のエピソードは細部まで描かれていて、そこは結構良いなと思います。

母と似ていて喋らない子ども新藤さんとか、後半につれてエピソードのおもしろさが上がっていった気がします。

百年泥―時間の塊―今の繰り返し―家族

時間の概念として百年が泥として固まっているっていうのがなかなか愉快ですね。

総評としては、新しさは感じないが良い小説という感じですね。まっとうな小説な気がします。
青木淳悟の少し近いのかな、と。

デスゲーム系の小説まとめ&おすすめ

デスゲームとは?

文字通り、死のゲーム。
登場人物たちは、命をかけてゲーム参加する。

漫画、小説、映画などあらゆる媒体でデスゲームは存在する。
とはいえ、数は決して多いとは言えない。

これから、デスゲーム系の小説を読もうとしている人の参考になれば幸いです。

勝手な定義

1,主催者がいる
2,明確なルールがある
3,参加することで生死に関わる

デスゲームといっても色んなパターンがあるため、殺し合う系と、ゲーム系に区分してあります。

★度が高いほどおすすめの作品になります。

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矢野龍王『極限推理コロシアム』感想 密室殺人ゲーム

極限推理コロシアム (講談社文庫)

極限推理コロシアム (講談社文庫)

デスゲーム×王道ミステリー

「今から始まる殺人事件の犯人を当てよ」
監禁された七人の男女に「主催者」から突然そう告げられる。
しかも監禁されているのは彼らだけではなく、別の場所で同じように七人の男女が監禁されていた。
「夏の館」と「冬の館」合わせて14人。
それぞれの犯人を言い当てないと、全員死刑になる。
解答は一回のみ。
主人公、駒形は「犯人」を見つけ出し、生きてこの場から出ることができるのか。

舞台設定がなかなか見事で、おもしろい作品だと思った。
とくに秀逸なのは「冬の館」というもう一つの館の存在。彼らとの通信による情報だけで「冬の館」の犯人を当てないといけないっていうのが斬新だった。

ミステリーとしての難易度はそう高くない。
恐らく大半の人が途中でトリックの正体に気づくと思う。
ミスリードはいっぱい張ってあるが、どれもすぐ「違う」と気づくだろう。

ただ、フェアではないような気もした。誰が犯人かはわかるのだけど、その証明の仕方が歯切れ悪い。
唯一無二の証拠があって犯人を見つけるわけではないので、作者のさじ加減のような気がした。

トリックの方が重要であり、犯人はどうでも良いといっているようなものだ。残された謎に対しても憶測が多く、すっきりとしない。

ただおもしろい作品であるのは事実なので、主人公と一緒になって「犯人探し」をしてみるのも悪くないだろう。

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ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』感想

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

犯罪小説の傑作

流浪の身だった「俺」ことチェンバーズが、愛のため犯罪を犯すことになるノワール小説。
ギリシャ人店主のニックのもとで働くことになった「俺」は、その妻であるコーラに心を奪われ、コーラと共謀してニックを殺すことを計画する、というストーリー。

訳者は池田真紀子で、新訳ということもあってスラスラと読むことができた。一人称の軽快な語り口で綴られているのだが、決して「軽くはない」内容だ。

サスペンス要素がふんだんに盛り込まれていて、飽きない。問題が解決すると思いきや、また問題がふりかかってくる。
犯罪者の業のようなものを感じさせられた。

内容に触れるとネタバレになってしまうの控えるが、いま読んでもおもしろいので、サスペンス好きなら是非読んでほしい。

とにかく構成が巧みだ。

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三津田信三『スラッシャー 廃園の殺人』感想

スラッシャー 廃園の殺人 (講談社文庫)

スラッシャー 廃園の殺人 (講談社文庫)

三津田信三『スラッシャー 廃園の殺人』感想

序盤sawのように惨殺される男女が出てくるけれど、メインは謎の殺人者から廃園(というファンタジーワールド)の中を逃げまどう話。

「殺され方」を楽しむ小説ではなく、ミステリー風のホラー作品である。
ジェイソンに追いかけられるとか、そっちの方に近い。
廃園からの脱出、そして犯人は誰なのか、というのがこの小説の面白みになってくる。

そして舞台となる廃園がなかなかすごい。
謎の失踪をとげたホラー作家が作った廃園なのだが、洞窟あり、迷路あり、砂丘あり、城あり、と、なかなかの四次元空間である。
読んでいてわけがわからなくなるほどだが、逆にそこがおもしろいと思う人もいるだろう。

おれはなかなか良いと思った。
この手の特殊空間は「次に何があるのだろう」と疑問に思わせるところが良い。ぶっちゃけ興味をそそられた。
もともとB級ホラー小説として読んだせいか、そこまで、リアリティの問題は気にならなかった。

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津村記久子『カソウスキの行方』感想

カソウスキの行方 (講談社文庫)

カソウスキの行方 (講談社文庫)

短編集。「カソウスキの行方」、「Everyday i Write A book」、「花婿のハムラビ法典」の3本が収録されている。

まず表題作でもある「カソウスキの行方」から感想を書いてみる。
あらすじとしては、本社から郊外の倉庫に左遷させられたOLのイリエが、仮想的に同僚の森川を好きになってみるという話。しかし恋愛の甘酸っぱさはどこにもなく、むしろ冷めていておもしろい。

イリエが偶然に、ショッピングモールで森川を発見するシーンなんで良い意味でひどい。

森川がカートを押して横切っていくのが目に入った。あの人こんなところに来るのか、休みの日は絶対風俗行ってるんだと思ってた、いや、今は風俗帰りで寄ってるだけかもしれない(p30『カソウスキの行方』講談社文庫)

女の人が男の人に対して「風俗帰り」だと思うなんて、恋愛対象外以外の何物でもないだろう。思わず、笑ってしまった。
読んでいくと森川が良いやつなことはわかる。ちょっとぶっきらぼうではあるけれど、イリエに対して裏のないやさしさを見せる。

段々好きになっていく話かな、と思ったら、まったくそうならないのが津村記久子のすごいところだろう。
最後の森川に送ったメールもかなり笑えるので、まだ読んだことのない人は是非。

「カソウスキの行方」は個人的には津村記久子のなかで一、二を争うほど好きな短編だった。

次は「Everyday i Write A book」。

新しく地下鉄に導入される「ICカード」と、そのデザイナーであるシカド君、その妻である絵本作家茉莉。主人公である野枝は、その茉莉のブログを見ているうちに段々とおかしくなっていく。
この話も恋愛未満のような雰囲気で展開していく。毎日、ゴミ箱から雑誌を拾うオサダ君と仲良くなっていくのだ。茉莉のブログの苛々とする感じが、実際にありそうで笑える。

最後は「花婿のハムラビ法典」

これから結婚式である花婿が、新婦に対してあれこれ思い返す話。遅刻はしまくるわ、ドタキャンしまくる恋人(新婦)に対して、「目には目を」ということで、遅刻したりドタキャンしたりする主人公が描かれている。
この話も結婚までいっているのに、愛がそこまでないように見える。冷めきっているわけではないのだが、普通の恋人ではないような感じがする。
一筋縄ではいかない話で、おもしろい。

津村記久子『とにかくうちに帰ります』

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

『とにかくうちに帰ります』は短編集。
家が好きな僕は、題名からして「わかるわかる」とつぶやきたくなってしまう。家って最高だ。

収録されている短編は6つ。うち4つは「職業の作法」というタイトルでまとめられている鳥飼早智子というOLが主人公。その次の短編「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」も鳥飼さんが主役のため、表題作以外は鳥飼さんの話になっている。
とはいうものの、たいていの視点人物がそうであるように鳥飼さんはカメラの役割の方が強い。
小説に出てくる脇役たちの方がキャラが濃いのである。

「職業の作法」の一話目は「ブラックボックス」という掌編。
そこに出てくる田上さんというOLは、自分へのぞんざいさを態度ではなく仕事のスピードで表す。
誠意が見られない相手には、わざと締め切りギリギリに出して、頼んだ相手をひやひやさせるということを繰り返している。

次の三話目の「ブラックホール」に出てくるのは間宮さんという定年間際の会社員で、彼は他人の文房具を勝手に使うという悪い手癖を持っている。しかも借りたことをすぐ忘れてしまうのだ。傍迷惑極まりないが、逆に自分のものを勝手に借りられても気にしないタイプなので許されている。主人公である鳥飼さんも、愛用の万年筆を借りパクされたままで、どうにか助け出す機会をうかがっている。この掌編のおもしろいところは、鳥飼さんの間宮さんの評価がころころ変わるところだろうか。

「職業の作法」は読んでいて抜群におもしろい。出てくるのは変な人ばかりなのだけど、実際にいそうなレベルばかりでリアリティがすごい。
そんななかで、会長の隠し子の名前がギジェルミーナだったりとふいに出てくるユーモアも素敵だ。

「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」という噛みそうな短編は、フィギュアスケートの話。個人的にはあんまりはまらなかった。
しかし応援する選手がみんな悪いことが起きる浄之内さんはなんだかキュートだった。

そして表題作「とにかくうちに帰ります」なのだが、ぶっちゃけるとこれも自分的ヒットにはならず。バットには当っている気がするのだが、おもしろいの域にまで入らなかった。
一応説明しておくと「とにかくうちに帰ります」は、豪雨でバスがいなくなってしまい会社から歩いて帰る話だ。会社は州にあり本土まで橋を渡らないといけない。
登場人物四人の群像劇のようになっていて、それぞれが大切なことを口に出したり、どうでもいいことで盛り上がったりするところが楽しい。