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本の感想

さくらももこ『ちびしかくちゃん』感想 ある意味やさしい世界

ちびしかくちゃん 1 (りぼんマスコットコミックス)

ちびしかくちゃん 1 (りぼんマスコットコミックス)

ちびしかくちゃんとは?

ご存知「ちびまる子ちゃん」の公式パロディ。作者は同じさくらももこ。顔が丸いちびまる子ちゃんと比べて、「ちびしかくちゃん」は顔が四角い。通称「しか子」が主人公。
開き直る系のまる子と比べると、しか子はひたすら自虐的になる。
というより周囲がしか子に対して理不尽に厳しすぎるため、しか子が自虐にならざるをえないという感じだ。

10分遅刻しただけで激怒する友人だまちゃん。
「しか子 あんたはインスタントラーメン以下だよ」と罵る。

しか子に非があってもなくても「しか子が悪い」となるさくら家。

ちびまる子ちゃんの悪夢と言うようなブラックユーモア作品になっている。

感想

ネットでは賛否がわかれている「ちびしかくちゃん」。
率直な感想を言えばおもしろかった。「ちびまる子ちゃん」と比較してのメタ的な要素もあるんだけど、元ネタ抜きでも興味深い作品だった。

僕が思うにこの漫画「ちびしかくちゃん」はやさしい世界である。
これを読んでいるあなたは「なに阿呆なこと言ってるんだこいつ」と思ったことだろう。あんな悪意たっぷりの世界のどこがやさしいのだと。

罵倒をグッとこらえて聞いてほしいのだけど、僕が思うやさしいというのは、しか子に対するものではなく読み手に対するものだ。
というのも、しか子の非に対する責められ方のバランスにある。
しか子の責められ方が理不尽すぎて、読んでいて罪悪感を受けにくいのだ。

たとえばしか子が、だまちゃんの大切なものを壊したとする。それでめちゃくちゃに責められたのなら、読んでいて僕は胸がちくっとしたと思う。
しか子に非がある以上、だまちゃんに責められてもしかたないからだ。過去の自分の過ちを思い出してどんよりとするだろう。

漫画では、だまちゃんはしか子が10分遅刻したことに対し激怒する。しかし、しか子は一生懸命走っていたうえに、遅刻したのも母親に用事を頼まれたからだ。

「遅刻という非」よりも、だまちゃんの「激怒という非」の方が上回っているように感じられないだろうか。完全にだまちゃんの方が悪者になっている。

だから、しか子がいくら「自分が悪い」と思おうが、読み手はしか子が悪いと思わないような話になっている。罪悪感を覚えずにすむのだ。
「ちびしかくちゃん」を読んで胸くそ悪いと思った人も、「罪悪感」だけは覚えなかったはずだ。

ちなみに僕は「遅刻10分」は、ものすごく申し訳なく思ってしまう。気にしやすく罪悪感を覚えやすいタイプなのだ。
たいてい相手は「別にいいよ」と言うのだが、怒られないせいで余計罪悪感は増す。怒られたら怒られたで自分を責めてしまう。
だけど、しか子のようにこれだけ理不尽に責められたら「そこまで言わなくてもいいのにな」となって、罪悪感が消える。

しか子が怒りという武器を使うのではなく、自虐を使うのもよかった。
もし理不尽に対してしか子が怒っていたら、過去に自分が受けた理不尽を思い出して自分まで気持ちが苛々としていただろう。
だけど、しか子が必要以上に卑下することで、「いやいや、しか子は悪くないよ」と思うことができる。
「しか子は悪くない」と思うことで、過去に自分の受けた理不尽も「やはり自分が悪くないんだ」という再認識に繋がる。

理不尽に責められた経験のある人は、絶対に相手がおかしいと思いつつも「自分もおかしいのでないか?」と心の片隅に思ってしまう傾向があるようにみえる。少なくとも僕がそうだ。しか子もそのタイプだろう。みんながお前が悪いというから「自分が悪いのではないか?」と考えてしまう。
「ちびしかくちゃん」を読むことで、客観的に「しか子」という人間を見れる。しか子の自虐を否定することで、「自分が悪いのかも」という気持ちが浄化されるのだ。

あと、自虐の描き方がうまいなと思う。
しか子は、何かないかぎりは普通に楽しくやっているのだ。
もし、周囲が理不尽のせいで必要以上に暗い性格になっていたら、しか子かわいそう感が強まっていたのだろう。

お花見の席で、しか子が「あんまりいいことなんてない毎日だけど、たまにはいいことあるんだよね……」と思うシーンがある。
しか子には厳しい世界だけど、そういうささいな幸せをしっかりと感じとれるしか子は強く生きていけると思う。

どんな厳しい世界でもいいことはあるんだよ、と諭す感じもまたやさしいなと思った。

「ちびしかくちゃん」の世界は角が立っているだけじゃないよ、と伝えたかった。罪悪感を覚えやすい人もそうでない人も、是非読んでみてほしい。

グランドジャンプ試し読み|『ちびしかくちゃん』

個人的にはだまちゃんからの年賀状の「あけましてどういたしまして」が好き。