路地裏ブック

本の感想

津村記久子『とにかくうちに帰ります』

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

『とにかくうちに帰ります』は短編集。
家が好きな僕は、題名からして「わかるわかる」とつぶやきたくなってしまう。家って最高だ。

収録されている短編は6つ。うち4つは「職業の作法」というタイトルでまとめられている鳥飼早智子というOLが主人公。その次の短編「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」も鳥飼さんが主役のため、表題作以外は鳥飼さんの話になっている。
とはいうものの、たいていの視点人物がそうであるように鳥飼さんはカメラの役割の方が強い。
小説に出てくる脇役たちの方がキャラが濃いのである。

「職業の作法」の一話目は「ブラックボックス」という掌編。
そこに出てくる田上さんというOLは、自分へのぞんざいさを態度ではなく仕事のスピードで表す。
誠意が見られない相手には、わざと締め切りギリギリに出して、頼んだ相手をひやひやさせるということを繰り返している。

次の三話目の「ブラックホール」に出てくるのは間宮さんという定年間際の会社員で、彼は他人の文房具を勝手に使うという悪い手癖を持っている。しかも借りたことをすぐ忘れてしまうのだ。傍迷惑極まりないが、逆に自分のものを勝手に借りられても気にしないタイプなので許されている。主人公である鳥飼さんも、愛用の万年筆を借りパクされたままで、どうにか助け出す機会をうかがっている。この掌編のおもしろいところは、鳥飼さんの間宮さんの評価がころころ変わるところだろうか。

「職業の作法」は読んでいて抜群におもしろい。出てくるのは変な人ばかりなのだけど、実際にいそうなレベルばかりでリアリティがすごい。
そんななかで、会長の隠し子の名前がギジェルミーナだったりとふいに出てくるユーモアも素敵だ。

「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」という噛みそうな短編は、フィギュアスケートの話。個人的にはあんまりはまらなかった。
しかし応援する選手がみんな悪いことが起きる浄之内さんはなんだかキュートだった。

そして表題作「とにかくうちに帰ります」なのだが、ぶっちゃけるとこれも自分的ヒットにはならず。バットには当っている気がするのだが、おもしろいの域にまで入らなかった。
一応説明しておくと「とにかくうちに帰ります」は、豪雨でバスがいなくなってしまい会社から歩いて帰る話だ。会社は州にあり本土まで橋を渡らないといけない。
登場人物四人の群像劇のようになっていて、それぞれが大切なことを口に出したり、どうでもいいことで盛り上がったりするところが楽しい。