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本の感想

ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』感想

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

郵便配達は二度ベルを鳴らす (光文社古典新訳文庫)

犯罪小説の傑作

流浪の身だった「俺」ことチェンバーズが、愛のため犯罪を犯すことになるノワール小説。
ギリシャ人店主のニックのもとで働くことになった「俺」は、その妻であるコーラに心を奪われ、コーラと共謀してニックを殺すことを計画する、というストーリー。

訳者は池田真紀子で、新訳ということもあってスラスラと読むことができた。一人称の軽快な語り口で綴られているのだが、決して「軽くはない」内容だ。

サスペンス要素がふんだんに盛り込まれていて、飽きない。問題が解決すると思いきや、また問題がふりかかってくる。
犯罪者の業のようなものを感じさせられた。

内容に触れるとネタバレになってしまうの控えるが、いま読んでもおもしろいので、サスペンス好きなら是非読んでほしい。

とにかく構成が巧みだ。

ネタバレあり感想

ここからはネタバレありになります。

ニックを殺すために偽装で車事故を起こした主人公チェンバーズが、本当に車の事故で全てを失うっていうのが、おもしろかった。
短くまとめれば上質なショートショートになるほど、ブラックユーモアたっぷりという感じだ。

この小説でおもしろいのは、ニックを殺した2人は無実となり、しかも保険金まで転がりこんだのに幸せにはならないというところだろう。
チェンバーズとコーラの心情はかなりリアルで、罪というのは法が見逃してもついてくるのか、と教訓めいたことさえ思わせる。

チェンバーズとコーラの愛は、ニックを殺し終えたところがピークだった。
それが検事と弁護士のせいで、そこにはヒビが入り、新しい命の誕生で再び愛が復活したと思いきや、事故でコーラを死なせてしまう。

ニックを殺したのだから罪はあるとはいえ、愛する人さえ殺人したと思われてしまったチェンバーズはあまりにも悲しくうつる。
コーラは死ぬ間際になにを思ったのだろうか?

あと個人的に好きなシーンは、裁判のとき保険会社が保険の説明をするところ。次々と保険を説明する保険会社員に対して「必要な保険にはもう入ってるんでね」と、判事がとめて笑いに包まれる。
些細だが、このシーンには実際にありそうだというリアリティを感じた。

軽快な一人称のせいか、この小説にはどこか夢物語的な雰囲気がある。しかし、細かいシーンの一つ一つがどこかリアリティを持っているような気がする。
悪い白昼夢みたいなものだ。